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「わたしのうつわ、食器棚。」想い出の器 vol.2

「わたしのうつわ、食器棚。」想い出の器

写真=須藤敬一 文=山野井春絵

二度と手に入らない黒い鉢

直径30cm以上あるこの大きな黒い鉢は、〝白と黒の器〟で有名な吉田直嗣さんの作品です。吉田さんがデビューして間もないころ、富士山麓の窯を訪れて手に入れたもの。他にも中鉢、小鉢などまとめていくつか購入しました。中でもこの大鉢は、形、大きさ、薄さ、すべてのバランスが 整っていて、とにかくかっこいいのです。真っ黒なのに、温かみがあるのもいい。どんな料理を盛りつけてもおしゃれになって、置いておくだけでも楽しくなります。 私もそのときによって作りたい料理が変わるように、陶芸家の作風も、年齢を重ねるにつれて変化していくもの。だから、あのときにこの器と出合うことができて、本当によかったと思います。

吉田さんの器は、潔くシンプル。盛りつけるものを選びません。冷ややっこやサラダのような簡単なものからスープまで、何でも合います。花器として花や緑を生けることも。

旅の記憶がつまった器

海外でも器を探すのが楽しみのひとつ。スペインやイタリアでは、土ものの器をよく見ましたし、イギリスやアメリカでは、骨董屋や蚤の市を見て回りました。器好きだった玲児さんも、古道具屋のようなところで掘り出し物を見つけるのが大好きでした。大きな鉢や、アフタヌーンティーの三段セットなどは、飛行機でも手荷物にして大事に持ち帰ったものです。わが家には、旅の記憶が詰まった器がたくさんあります。このいちご専用のかわいい器は、ずいぶん前にニューヨークへ行ったとき、骨董屋で見つけたもの。ピッチャーには練乳を、ふた付きの部分には砂糖を入れます。私はいつも練乳に少し牛乳を足して、甘さをおさえたやさしい味にしています。

 

いちご専用スプーンには、いつもいちごを潰して食べさせてくれた父との想い出があります。これは私がデザインしたものです。

 

永遠に好きな桜

私は桜が大好き。桜モチーフの器をたくさん持っています。この大きさも形もさまざまな桜のシリーズは、中尾万作さんの作品です。30年以上前、器屋で見つけたときに、なんてかわいいんだろう、とひと目惚れ。それから買い集めるようになり、中尾さんご本人とも仲良くしています。玲児さんも、桜が好きでした。毎年、目黒川の桜並木を散策したものです。庭では、桜と同じ時期にピンク色の花を咲かせるカイドウを眺めて、お花見をしながらお酒を飲みました。亡くなる直前にも「弘前の桜が見たい」と言うので、息子と一緒に行き、車椅子から桜を見上げながら、とても喜んでくれました。桜には、いい想い出ばかり。私にとって、特別な花なのです。



手描きの桜の模様はひとつとして同じものがありません。
さまざまな形の小皿を少しずつ集めているうちにたくさんそろっていました。