「寂しくても、楽しく。」思い出の器
2022/09/14第二回 粉引の四つ足皿
写真=山口恵史 文=仁田恭介
若い頃の決意を 思い出させてくれる器
私が料理の仕事を始めた80年代は、今とは違ってスタイリストさんが器を決めるのが当たり前の時代。料理家が器を選ぶことなどできませんでした。たとえスタイリストさんが持ってきたお皿が自分のイメージするものとかけ離れていたとしても、それを使うしかなかったのです。でも、『ごちそうさまが、ききたくて。』 と、 続編 の『 もう 一 度、ごちそうさまがききたくて 。』 では 、 絶対に自分が選んだ器を使おうと決めました。地方にある窯元を巡り、たくさんの作家の方に会って買いためておいたものを、料理に合わせたのです。数ある中でも、掲載してとりわけ読者の方の反響が大きかったのがこのお皿です。温かみのある粉引で、深さもある楕円形。足がついているというのが当時はすごくめずらしかった。この足があるだけでおしゃれになります。本の中で、チョコレートケーキやお刺身、牡蠣の混ぜご飯を盛ったように、煮物やパスタま で幅広く使えるのも魅力。2冊の本を通じて、器選びや使い方を評価していただいたのが本当にうれしかったですし、自信がつきました。前例がないことをするときって、不安になることが私もありますが、そんなときにこのお皿を使うと、すごく前向 きな気持ちになれるんです。 自分がやりたいと思うことを見つけたら、とことんまでやってみよう。枠を決めず、どんどん可能性を広げていこう。 自分を信じよう。そう思わせてくれる大切な器です。