飲み友達と乾杯
2022/04/06第1回 操上和美(写真家)
文=山本奈緒子
栗原さんが親交のあるゲストを迎えてお届けする対談。飾らない会話から、ゲスト、そして栗原さんの素顔が垣間見えます。第1回は創刊号の表紙撮影も担当した写真家・操上和美さんです。
栗 - 操上さんとはもう6年ぐらい飲 み友達なんですよね。共通の友人を介して知り合って、たまたま家が近かったから、よく飲むようになって。操上さんはステーキを焼くのがとても上手なので、操上さんがわが家に来る日はいつも厚切りのステーキ肉を用意しておくんですよ。それをレアで焼いてくれるんです。
操 - 僕はどっちかというと人見知りなんだけど、はるみさんは人見知りさせてくれなかったから(笑)。
栗 - 私も。人見知り同士だからよかったのかな。でも仕事でご一緒するのは初めて。ずっと撮影してもらいたかったんですけど、なかなか機会がなくて。今回、私の雑誌を創刊する記念に、これはいいタイミングだからぜひ表紙を撮っていただこう、と思いました。
操 - はるみさんのスタジオはインテリアが素敵だし、光もいいし、気持ちが解放されますよね。僕はずっと撮りたかったのに、なかなか撮らせてくれないから(笑)。
栗 - 光だけは自慢です。今日撮っていただいた写真は、いつもと雰囲気が違って私も新鮮でした。
操 - これまでのはるみさんの写真を見ていると、左から撮った笑顔のものが多いから、できれば左からは撮るまい、と思っていたんだよ。
栗 - 左からのほうがいいとずっと言われ続けてきたから、私自身もそうなのかなって、右からだと違和感を覚えるようになって。なので右側からの写真は自信なくなっちゃいました。
操 - そういうのって観念的なものだからね。あまり違うとはるみさんが気にすると思って、今回は〝やや左から〞で撮りましたけど、でも大丈夫。どっちにしても美しいし、何よりはるみさんは気持ちが明るいからいいよね。
栗 - 私は元気だけが取り柄だから、機嫌が悪い日がないの。
操 - 僕もない。
栗 - お互いそういうところがちょっと似てるかな。性格もポジティブだし。
操 - 仕事でも怒ってピリピリするとかないよ。
栗 - でも周りには怖いと思われてるんじゃない ?
操 - たしかに若い時はありましたよ。 当時は撮影がフィルムだったでしょ。そうするとアシスタントがフィルムを詰め替えるのが間に合わないわけ。でもセッションが乗っていると流れを止めたくないから、中が空っぽのままカメラを受け取って撮るんですよ。シャッターを空切りして。
栗 - えぇ、そうなんだ! それにしても操上さんは年齢を感じさ せないところが素晴らしい。い つも見習っています。
操 - 若い時から足腰が悪かったけど、自力で治したから。例えばぶら下がり棒にぶら下がると、体が伸びてヘルニアが神経に当たらなくなって、痛くなくなるんだ。
栗 - 私もそれ、やろうと思ってました! 今は他はどこも悪くないの?
操 - 内臓系は全くないね。
栗 - あと操上さんは姿勢がいい。
操 - 僕は子どもの時から背が低くて、並ぶ時も一番前だったんです。 悔しいから大きく見せようと胸を張っていたんですよ。それで姿勢がよくなった。はるみさんも姿勢はいいよね。
栗 - 私は料理をしていると下を向くことが多いから、猫背にならないよう、逆に背中を反らせるくせがついちゃって。それで腰を悪くするの。
操 - 僕もカメラを持つから、右肩だけが内側に入って痛いんだよね。お互い何十年もやってると、まさに職業病だね。
気の知れた仲間との楽しい時間と会話
栗 - 操上さんとは、たいてい操上さんの奥さんと、もうひとり、共通の友人と 4人で飲むけど、操上さんはあまりハメを外さない。私は外すけど(笑)。操 - そうだね。でも若い頃は、毎晩ぶっ倒れていたんですよ。
栗 - そうなの!?
操 - 親父もそうなんだけど、もともとは飲めない体質で、トレーニングしたんです。そしたらある日、急に強くなって、朝まで飲んでも平気になった。
栗 - 家では何を飲むの ?
操 - いろいろですよ。ワイン、ウォッカ......、でも最近は日本酒が多いかな。
栗 - 今度、おいしい日本酒を持ってきてくれる約束よね。私、操上さんのお家の近くの肉屋さんによく行くのだけど、帰りに寄ろうかなと思ったりする。急に行ったら上げてくれるかな、なんて想像しながら(笑)。
操 - 歩こうと思えば歩ける距離だもんね。
栗 - 家が近いって、友達になる大きなきっかけの一つよね。いつも楽しく飲んで、お話しさせてもらっています。
操 - 何を話しているかと言われると、たいしたことは話していないんだけどね(笑)。
栗 - 近況報告という感じでもない。それはお互い、インスタグラムを見ていると分かるから。
操 - 本当に気楽な普通の会話。僕のほうが年上だけど、はるみさんは年下の友達とは思っていなくて、ちょうどいい感じ。
栗 - だから私を呼ぶ時、〝はるみさん〞なの?
操 - 僕は普段、若いアシスタントで も〝君〞づけでは呼ばないんで すよ。〝さん〞をつけて呼ぶ。 はるみさんも、〝はるみさん〞 が一番親しみやすい。
栗 - 私は〝くりさん〞とは呼べない。操 - だいたいの人はそう呼んでいるし、いいんですよ〝くりさん〞で。
栗 - 急に? 図々しくないかな(笑)。
操 - あとね、はるみさんのことは何か気にかかるんですよ。寂しい思いをしていないかなあ、と。
栗 - してますよ。夫が亡くなってからはね。とくにこの家は、夜は静かだから。だから私のこと、 忘れないでね。
操 - 大丈夫、忘れたりしませんよ。 また肉屋に来たら、キンコンと鳴らしてください(笑)。
GUEST 操上和美 Kazumi Kurigami
1936 年生まれ。北海道・富良野出身。27 歳で独立後、ファッション、広告分野を中心にコマーシャルフィルムを多く手掛ける。主な写真集に『陽と骨』『SHINNOSUKE』『PORTRAIT』など。 2020 年には写真界の巨星、ロバート・フランクの姿を収めた写真展『April』を開催。井上陽水や乃木坂 46のミュージックビデオも手掛けている。
photo by Kazumi Kurigami