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「寂しくても、楽しく。」ストーリーのある大切なもの

ストーリーのある大切なもの
第四回 チェックのリボンシャツ

写真=山口 恵史 文=仁田恭介

サイズをお直しして着続けている玲児さんのチェックシャツ

 玲児さんが亡くなって、2年ほど経ったときのこと。彼のクローゼットにある服の中で、私にも合うものがあったらリフォームをして着たいなと思ったんです。ただ、彼と私では、サイズがあまりにも違うので、直すとなると、全部ほどいてイチから作り直さなくちゃいけない。だから特に思い出深いものだけに絞ろうと思って、数ある中から選んだのがこのグッチのチェックシャツです。

ネル生地で、首元にリボンがついていて、玲児さんがそれまで選んだことのないかわいらしいデザイン。どちらかというと、首元に紐やリボンがついているシャツが好きなのは私なので、買ってきたとき彼は「どう? いいでしょ?」って何度も見せてきたんです。きっと私が喜ぶと思ったんでしょう。あと、普段着ない服がちゃんと似合っているのか心配で、私に感想を求めてきたんだと思います。でも本当に似合っていて、80歳でこういうリボンのシャツをさらっと着こなせるって素敵だねと伝えたら、ちょっと誇らしげな顔をして笑っていました。

そのときのたわいのない会話を、このチェックシャツを着るたびに思い出します。お直しでは、大掛かりに変えることはなく、身幅と袖丈、着丈などを調整しました。それでもシルエットはゆったりしているので、セーターの上に羽織り、リボンは結ばずにたらして、シャツカーディガンのような感覚で着ています。