プレビューモード

「寂しくても、楽しく。」飲み友達と乾杯

第5回 TAIRIK(ヴァイオリニスト)

写真=阿部 健  文=内田いつ子

栗原さんが親交のあるゲストを迎えてお届けする対談。飾らない会話から、ゲスト、そして栗原さんの素顔が垣間見えます。第5回はヴァイオリニスト・TAIRIK(タイリク)さんです。


曲を聴いて、いつも元気をもらっています

T - はるみさん、こんにちは! はるみさんとは今年の3月まで2年間、NHKの『きょうの料理 栗原はるみのキッチン日和』でご一緒させていただいて、とてもお世話になりました。

栗 - TAIRIKくん、元気だった? 一緒に番組ができて私もとても楽しかった。番組のテーマ曲も作ってもらったわね。この番組のパートナーを決めるとき、プロデューサーさんから候補の方のリストをもらって、「この中で気になる人はいますか?」って聞かれたの。16人くらいいたかな。私の直感で、音楽をやっている人がいいなと思ってTAIRIKくんにお願いすることにしたのよ。決まったあとに、実はさだまさしさんの息子さんだということを知りました。

T - それはありがとうございます! 僕もマネージャーから話を聞いたときはびっくりしました。「え!? NHKの『きょうの料理』? 栗原はるみさんの番組に出演するの?」って(笑)。そのプロデューサーさんは僕の当時のインスタグラムを見てくれていて、候補にあげてくださったみたいなんです。

栗 - インスタグラムがきっかけなのね。

T - コロナ禍でライブ活動が全くできなかった時期に、飲食店も営業できなくて魚があまっているというニュースを見たんです。だったら魚を買って、さばけるようになろうと思って、その様子をアップしていたら、プロデューサーさんが見てくださって。何が起こるかわかりませんね。


栗 - 番組がはじまる前に、顔合わせでここにも来てくれたわね。

T - あのときのことは忘れられません。ツナメルトと焼き菓子とお茶をごちそうになりましたが、もうそれが驚愕のおいしさで! とくにツナメルトは表面にバターを塗ってカリッカリに焼かれていて、「なんだ、このおいしさは!」ってバクバク完食したら、僕の苦手なセロリがたくさん入っていたというびっくりなオチ(笑)。

栗 - TAIRIKくんはトークがとても上手で、番組で食べたときの感想もただ「おいしい」だけじゃなく、見た目や香り、食感や味を的確に伝えてくれるのがよかったな。

T - はるみさんの味はまちがいないので、僕が食べてシンプルに反応すれば、料理のよさが伝わるんじゃないかなと思って。それに加えて、はるみさんの金言をいかに引き出すかってことにも注力していましたね。料理を作りながら、いいことをたくさん言ってくださるから。

栗 - 番組の進行上、パートナーとの相性はとても大切なの。相手のトークが上手すぎると圧倒されてしまうし、私は料理をするので、あまり話に集中もできない。そのあたりをわかってくれて、さりげなくサポートしてくれる感じがとてもよかった。そしてTAIRIKくんは料理に興味はあるけど、知らないこともある。それが料理番組にとっては大事なところです。

T - 僕、いろいろ聞きまくっていましたよね。


栗 - ふたりの相性のよさが楽しさになって、画面からもそれが伝わって、いい番組になったんだと思います。この番組がきっかけで、TAIRIKくんのアンサンブルユニットのTSUKEMENさんともコンサートでコラボさせてもらったわね。

T - トークコンサート、楽しかったですね。はるみさんにTSUKEMENの好きな曲を選んでもらってそれを演奏したり、お客さんへのおみやげにミルクジャムを作っていただいたり。トークになると、感激して泣いている方もいて、はるみさんの人間力を感じました。実は番組をやっているときもそれは感じていたんです。はるみさんはカメラが回っていないところでもずっと火加減を調整したり、どの瞬間も手を抜かない。そして自分には厳しいけど、人には押しつけない。そういう仕事への向き合い方を目の当たりにして、そのマインドが僕の心に深く刺さりました。はじめは「はるみさんに料理を教えてもらえるなんてラッキー」と、思っていたのですが、料理に向き合う姿から、人生観を教えていただきました。はるみさんは〝愛の人〟ですよね。

栗 - 人生、楽しく生きるのがいちばん。やりたいことがあったら、できるようになるまで思いきりがんばるしかないと思っています。私は去年からギターを習いはじめたの。ギターをやるなんて人生で一度も思ったことがなかったけれど、いい先生にめぐり合えて、楽しいから続けています。練習しているときは、T
AIRIKくんのことも考えるのよ。プロの音楽家になる人ってすごいんだなって。例えば「今日はこれができるまで練習しよう」と思っても、そこで終わっちゃいけないのよね。それ以上にやらないと上手にならないなって思って、毎朝仕事前に練習しています。


T - このマインドですよね。音楽でもなんでも、こういう人がトップになれるんです。

栗 - やるからにはね。ギターを習いはじめてからとても元気になりました。音楽には人の心を動かす大きな力がある。私はTAIRIKくんが作った「風の記憶」が大好きでいつも聴いています。この曲を聴くと、切なくなったり、元気づけられたり、慰められたりもするの。音楽はその人のそのときの心に寄り添ってくれる。大変だけどすごい職業だと思います。

T - 今日は「風の記憶」の演奏をはるみさんにプレゼントしようと思って来たので、それは後で。

栗 - わぁ、うれしい! ぜひまたお仕事しましょうね。いつかTAIRIKくんとギターでセッションできる日がくるかしら。

T - はい、ぜひ!

GUEST  TAIRIK(タイリク)
1984年8月11日生まれ。長野県出身。ヴァイオリンとヴィオラの二刀流プレイヤー。リーダーを務めるアンサンブルユニットTSUKEMENは、SUGURU(ピアノ)、KENTA(ヴァイオリン)との3人編成で、現在結成15周年記念の全国ツアーを開催中。共演した『きょうの料理』のテーマ曲、「HAPPYキッチン」のミュージックビデオには、栗原はるみさんも特別出演を。