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「寂しくても、楽しく。」思い出の器 

第五回 ウェッジウッドのカップ&ソーサー

写真=山口恵史  文=山野井春絵 


「いつか私も……」と夢を見させてくれたカップ

このシンプルなカップ&ソーサーは、今でも毎日使っているものですが、見るたびに駆け出しだったころを思い出して、懐かしくなります。
まだ無名だった私はある日、週刊誌の広告記事の料理を作るために、当時とても有名だった料理カメラマンのスタジオへ行きました。その方が「あの人誰?」と私のことを尋ねている声が奥から聞こえてきて、ドキドキしました。私の緊張をほぐすように、スタッフの方が出してくださったコーヒーが、このカップ&ソーサーに注がれていたのです。ひと目見て、「なんて素敵なカップ!」と感激しました。私もいつか自分の名前できちんと仕事ができるようになったら、スタッフの皆さんにこのカップ&ソーサーでコーヒーを出してあげたい、そう強く思って、これはどこで手に入りますか、とカメラマンさんに聞きました。撮影が終わって、その足で教えていただいた食器店へ行き、思いきって10客購入しました。あのときのうれしかった気持ちは、忘れられません。今でもひとつも割らずに、大切に使っています。その後、仕事が増えるようになると、機会があるたびにさまざまなウェッジウッドの器を買い集めるようになりました。撮影がはじまる前に、私の手作りおやつと一緒に、このカップでコーヒーを飲んでいるスタッフの笑顔を見ると、やっぱりうれしくなります。あの日、思いきって買ってよかった。「夢は叶っているよ」と、当時の私に教えてあげたいです。